蛇は寸にして人を呑む | |
空のバケツを提げたまま
01:49
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2014-02-16
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田丸浩平は、空のバケツを提げたまま、立ち止つた。
空のバケツを提げたまま、初瀬は、そのへんをぶらぶら歩いてゐる。
「おやすみなさい」
田丸浩平は、さう云つて、自分の家の方へ帰つて行かうとする。
「おやすみなさいまし。どうも、ありがたうございました」
晴れ晴れと、初瀬は、そつちへ声をかけた。
あつけないが、しかし、わだかまりのない別れ方であつた。
その翌日、昼すぎ、警戒警報が解除になつた。
初瀬は、急に思ひ立つて、蒲田へ出かけて行つた。吉村技師をその研究所へ訪ねるためである。
「ああ、さうですか。わかりました。別にお返事をする必要もないと思つたもんですから……。それに、あなたに説明をしてもわかるまいと思ふんです。非常に専門的なことですからね。しかし、折角いらしつたんだから、簡単に云ひますが、あの研究は、第一に、未完成です。第二に、着眼は可なり面白いが、推論がちよつと飛躍しすぎてゐて、肝腎なところの証明が不足です。第三に、部分的には、際立つて独創的な発見と方式とがあるにはあります。しかし、その理論を発展させる基礎に、致命的な弱さがある。つまり、研究態度の甚だしい孤立といふことです。ヴォラーレ
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